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天才ばかばんどもますます大所帯。ファーストCDは異様な盛り上がりとともに第2段へと続いていきますが、なら、もっと努力をすべきではないか? それも、間違った努力ではなく、天才ばかばんどらしい努力を。以下にみなさんが今なすべき努力を簡単な例をあげて伝えていきたいと思います。是非御一読ください。皆様に幸運が訪れますように。

 

 変な夢を見た。
 俺は夢の中でも眠っていて、周りは雲の中みたいに濃い霧につつまれていた。俺は俺が眠っている姿を斜め上から見ていて、それでいて自分の体の中に意識があるという感覚を持っていた。俺は非常に落ち着いた気持ちで何かを待っているような気持ちだった。その気持ちのままコンコンと眠りつづけた。そうしているうちに、すーっと頭の方から俺に近づいてくる気配があった。誰だ?俺は斜め上の俺からその姿を見ようとしたが、なぜかそのときには、俺は自分の姿を斜め上から見ることが出来なくなっていた。俺は目を閉じて意識だけでその声を聞くしかできなくなっていた。
 「そなたは、」
その声は言う。
 「そなたは、モノの大切さを知らなさ過ぎる。」
しわがれた、そして荘厳な声は耳からはもちろん、背中の振動、口から吸い込む息からも響いてきて俺の体の奥にまで届いた。
 「目覚めてからはそなたが手にするものを大切にすること。そうすればそなたに幸運がおとずれるであろう。よいか。森羅万象あらゆるもの、それらすべてが。。。」
話の途中で目が覚めた。

 目が覚めたときはいつもの俺の部屋で、東向きの窓から朝日が昼日に変わって逃げようとしていた。
 「11時か。」
 枕もとに近いビデオデッキの時計表示から時間を見た。今日はバイトが休みなので、まだ早い気もするが起きようかと体を動かしたとき、背中の下に何かあるのに気づいた。寝たまま腰を浮かし背中に手を回しての何かを取った。
 「何だコリャ?」
 茶色い、ストローみたいなモノ。
 「なんだ?草?」
 寝ぼけ頭で考え、さっきの夢を思い出し、気がついた。
 「藁!そうか、わらしべ長者!」
 けだるい体を笑いが揺らす。そして、目が覚めていくほど自分の身に降りかかった幸運を感じずにいられなかった。
 「待てよ、待てよ!藁なんて、俺の生活に藁なんて縁ないし、どうやったって布団に入るもんじゃない。それにあの夢、やった、チャンスだ。絶対、リーチ目入ってる。こりゃ、億万長者まちがいなし!?」
 俺は藁を手に取った。一見普通の藁。普通の藁にもお目にかかったことはないが、それにしても普通に藁。俺は藁を手にとって考えた。
 「たしか、わらしべ長者の最後は庄屋の娘と結婚、だったかな?結婚はちょっといやだな。しかし、それが俺のサクセスストーリーならしかたあるまいか?ん?俺の根無し人生さようならだね。」
 顔を洗うのも早々に、俺は外に行く用意をした。朝飯はいらない。多分藁が食わしてくれるだろう。頭も整えないし、歯も磨かない。服も一番汚いやつでいい。財布も持たない。わらしべパワーのお手並み拝見って感じで。
 そうして俺は藁だけ持って外へ出た。行く先はどうしようかと思ったが、わらしべ長者を踏まえれば、億万長者との出会いが不可欠だと思い、お金持ちの街、芦屋を目指すことにした。

 「まずは電車かな?」
俺は駅へと向かった。ひょっとするとこの藁がタクシーに乗せてくれるかもと思っていたが、何事もなく駅に着いた。
「まあ、幸運も徐々にって感じかな?わらしべ長者もみかんとかに交換から始まってたし。」
改札口を前に、ふと気がついた。幸運の興奮に勢い余って財布を持ってこなかったので切符が買えない。ってことは芦屋に行けない。歩けば猿岩石並みの重労働になること間違いなかった。俺はわらしべパワーのスタートダッシュの遅さに早くもイラついた。
「はやく来いよ!俺をエキサイトさせろよ!」
しかし藁は藁。握り締めすぎて少しフニャッとなった状態よろしくノンリアクションだった。俺はちょっと怒りモードに入りかけていたが、夢の声を思い出して心を落ち着けた。わらしべ長者もみかん交換から始まってたし。
「しゃあねえ、この辺歩いて幸運拾うか。チーターも歌ってたし。」
そして俺は歩きはじめた。

スタートからつまずいたものの、約束された成功に俺の気は大きくなっていた。歩き方がいやらしく大股になった。肩はオールのように風を切っていた。藁を口にくわえ、番長気分だった。鼻歌を歌いながら俺は駅の構内と隣接する駅ビル内を闊歩し始めた。
とにかくコミュニケーション。人とのふれあいが一番ありそうなレストラン街を重点的に通り抜けた。腹も減ったし。
レストラン街は昼時を間近にピークを見せつつも俺にトキメク出会いを用意していなかった。一瞬、藁を見せながら店に飛び込もうかとも思ったが、俺がそこまでしなくとも出会いはこっちに来るだろうと思い、やめた。俺が何故そこまでしなくちゃあいけないのか。神よ、俺にあんたを拝ませるぐらい幸運を降らせやがれ。と。そうして、通常の2倍の時間をかけたレストラン街巡回は何事もなく終わった。
「神さんよ。もったいつけんじゃねえよ。」
俺は藁に話し掛けた。相変わらず藁はノンコメンテーターだった。俺はわらしべ長者を思い出す。
「たしか、ぜんぜん億万長者関係なしのルートから成り上がるんだったよな。」
そこで、今度は、コミュニケーションと関係ないところ。大金持ちが来なさそうなところへ行くことにした。
「と、くれば、この辺では、駐輪場?」
金持ちはベンツだ。車で送り迎えだ。だから金持ちは駐輪場に来ないはず。そして一般人でも駐輪場に来るのは自転車を預けるか受け取るかしかないので話をするきっかけも自分が駐輪場の職員でもない限りありそうにない。俺は藁に今度こそは信じてやると念を送り、駐輪場へと向かった。

駐輪場は駅構内にある。三階建てになっていて朝と夕方のラッシュ時以外には人影はほとんどない。
「これで何かあったら、それこそ奇跡ですな。」
俺はニヤついた。ないはずのあごヒゲをこすった。駐輪場の受付から中に入る。受付には人がいなかった。自転車を整理しに行ったか、昼飯を買いに行ったか、俺は幸運を感じずにはいられなかった。
この駐輪場はメガネのような形になっている。ドーナツ状の廊下と廊下の両側に駐輪スペースがあってそれがぐるりと回って輪になっている。それがふたつあって、間を細い渡り廊下でつないでいる。ふたつのドーナツ廊下を回って、スムーズに一階をひとまわり。自転車用スロープを登って続いて二階。さすがに上の階になると自転車を上げるのも面倒なのか、自転車もまばらになる。当然人影もあるはずがない。何事もなく巡回完了。続いて三階。二階よりも自転車の数は少ない。
「さて、と。待っててよ〜。」
つぶやくと通路を歩き出した。一つ目のドーナツを回り終わり、渡り廊下を通って隣のドーナツへ。すると、駐輪スペース奥の方で何人かの人影があるのが見えた。
「やった!こんな昼間にこの駐輪場で人に会うなんて、こりゃ奇跡以外何者でもないね!」
俺はその人影達に向かって笑顔で歩き出した。
近づいてみるとその人影達は何人かの学生のようだった。向うもこっちに気づいたようで、会話を止め、鋭い視線を送ってくる。俺は笑顔で彼らの視線に答える。彼らのタバコを吸うペースが遅くなった。何人か座っていたが立ち上がった。俺は彼らと見つめ合いながら、優しく元気に声をかけた。
「やあ、何か困ったことはないかい?」
彼らは何も言わなかった。俺は笑顔で彼らの答えを待っていた。
すると奥に座っていたガタイのいい奴が俺に話し掛けてきた。
「ああ、困ってんよー。」
ガタイのいい奴は俺のすぐ目の前までやってきた。タバコが煙い。それ以外の奴が俺の周りをゆっくり囲みだした。
「俺がさっき買ってきたタバコがよー、吸いてーやつとちがってよー、イラついてんだよ。おめーこれ換えてきてくれんかよー?」
タバコの煙を吐き出すとともにそう言うと、俺の胸ポケットに間違えたであろうタバコを乱暴に突っ込んだ。
「ど、どこで買ったのかな?」
ようやくただならぬ雰囲気に気づいた俺は少し噛んでしまった。
「駅ん中だ。」
タバコが煙い。顔が近い。
「わ、わかった換えてこよう。」
一刻も早くこの場を出たくて思わず請け負った。俺の口調は媚びていなかったが、震える声は降伏宣言も同様だった。ガチガチの膝で回れ右すると、やはり煙い人垣を抜けて出口へと早歩いた。
「おー、ちょっと待てー。」
人垣のひとりにシャツを引っ張られた。
「あと、オレラ遊びたいざかりだからよー、ちょっとこづかいくれねーか?」
振り向くと彼らは初めて笑顔を見せた。ニヤついた、悪代官的な笑顔。なるほど、ヤンチャそうだもんね、と恐怖心が妙に感心しながら答えた。
「すいません。俺カネ持ってないんです。いま。」
ヤバイと思いながら、右手は藁を掲げていた。
「俺、いま藁しか持ってなくて、、、、」
話してる最中に、彼らは俺のシャツを思いっきり引っ張った。俺はよろけた。手すりを握りながら、人垣に吸い込まれるのを防いだ。
「こいつ、ナメてんのか!」
そんな声が聞こえたかと思うと火のついたタバコが何本か飛んできた。俺は無我夢中で体を振ってタバコをよけようとした。その瞬間体が軽くなり、シャツが彼らの手から外れたことに気づいた。そして気づくより早く俺の体は出口へと走り出していた。
駐輪場はドーナツ型になっている。彼らはドーナツの通路を左右に別れ追いかけてきた。これでは向うへ渡る渡り廊下へ出る前に挟み撃ちだ。
と、その渡り廊下から自転車を置きにアベックが入ってきた。アベックはこっち側の駐輪場へ入ったところでただならぬ雰囲気を感じ、立ち止まった。
「やった、これで向うからの通路はふさがった!」
俺はアベックの脇をすり抜けると男の自転車を思いっきり蹴った(女の子はかわいそうなので)。男は自転車を小脇にしたまま通路へ倒れこんだ。
「よし!道はふさがった!」
そう思うのもつかの間、追いかける彼らはアベック男子を飛び越えてくる。あるものは踏みつけていく。自分のやったことも棚に置き、ヒドイと思った。そして、ヤバイと思った。
スロープを転がるように二階へ。後ろの足音が近づいてくる。二階は三階に比べて自転車が多くて走りにくい。それでも何とか駆け抜ける。途中左右の自転車を通路に引き倒し、道をふさぎながら。
そうして、一階へ。彼らの足音が徐々に近づいてくる。タバコを吸っているとはいえ、十代は伊達じゃない。二階でやった要領で自転車を引き倒しながら走った。渡り廊下を抜けると受付が見える。
「あそこで助けを呼ぼう!」
俺は受付へたどり着くと小さな窓ガラスからプレハブ小屋の受付を覗いた。
「まだ帰ってない〜!」
受付に人はいなかった。足跡が近づいてくる。俺は受付のガラス窓に向かい舌打ちをして、受付の外へと飛び出した。
バンッ!キャッ!ガシャン!
受付に入ろうとしていた自転車に、急に飛び出した俺はぶつかった。おそらく自転車にぶつけたであろう右膝に痛みが走った。
「ヤバイ!これじゃあ逃げられない!」
俺がそのとき考えたのは、その人に助けを頼むことでなく、早く逃げないと!ということだった。痛めた右膝を気にしながらも立ち上がり、まだ、倒れたままの自転車を起こした。そして、やはりまだ倒れたままの自転車の持ち主に藁を投げつけると、その自転車にまたがり猛ダッシュした。駐輪場受付付近で怒声が響いた。

彼らの恐怖から逃れたかった。走っても走っても背中に何か追いついている気配が取れなかった。おそらく5駅分ぐらい走っただろう、漕いで漕いでぶつけた右膝が再び痛み出したときにようやくその速度を緩めた。
「ここまでくりゃあ。。」
気が付くと国道沿いの歩道を走っていた。目についた大型釣具店の駐車場へ入ると倒れこむように自転車を降りた。荒い呼吸が落ち着くまでアスファルトの上に寝転んだ。右膝がジンジンする。寝転んだまま首を左右に振ると駐車場出口のところに自販機があった。しかし、財布はない。その横に掃除用水道があった。俺は這ってそこまで行くと吹きさらしの汚い蛇口に口をつけ水道をひねった。そうして喉の渇きを潤し、続いて痛めた膝を水道水にさらした。
そうしたまま、ふたたび寝転がった。勝手に水道を使う駐車場を寝転がる薄汚い男。店員がやってくるのも時間の問題だろう。俺は考えた。これからの身の振り方を。
「ハァハァ、運命は、回りだした。ハァハァ。後は、この自転車が、何に化けるかだ。ハァハァ。」
やがて、駐車場横の釣具店が騒がしくなってきた。出入り口から店員が俺の方を見ている。そろそろ出ないと変なところへ担ぎ込まれる。この状態で入店した男の自転車がリールやルアーに化けるとは思えないし。
俺は再び這いつくばって、水道から自転車のところへ行った。笑いっぱなしの左膝とジンジン痛む右膝で何とか自分の体と自転車を起こし、すみやかに駐車場を出ようと試みた。足元がおぼつかない。またがるにはもう少し休息が必要と感じ、手押しで出口へ向かった。人影がこちらに近づく。ヤバイ。俺は自転車を前へ出すようにして足を速めた。しかし人影の方が一歩早かった。歩道へ出る一歩手前で自転車の後ろの荷台をつかんだ。
「ちょっと待ちなさい。」
荷台をつかんだ人影は以外に優しい口調で話し掛けてきた。
「すいません、今、出ますんで。」
俺は振り向かずに言った。
そうして、自転車を前へ押そうとした時、ガクガクの膝がバランスを崩した。俺は自転車とともにその場に倒れこんだ。
「大丈夫か?ちょっとこっち来ようか?」
荷台の手が離れ、うつぶせの俺の顔の前に差し出された。
「大丈夫です。」
と言いながら見ると、革靴、紺色の厚手のズボンと、海軍のように紐が縫い付けられた袖口が見える。俺は嫌な予感がして、その手の主を見た。店員と思っていたその人影は警察官だった。
「大丈夫か?ん?立てる?じゃあ、ちょっとそこのパトカーに乗ってくれるかな?」
その警察官は優しく俺の手を取り起こしてくれた。もう一人がすばやく俺とともに倒れた自転車を起こすとその車両ナンバーを確認し始めた。それを横目に俺は警察官の手助けでパトカーの後部座席へと乗り込んだ。
「そこで何してたの?ん?」
ああ、釣具屋の駐車場に怪しい人影発見の通報で駆けつけたんだなと思った。確かに俺の駐車場での行動はおかしい。聞いてもらえば分かる。こっちは被害者だと。そこで俺は話した。もちろん、わらしべ長者の話は抜きに、駐輪場で学生らにインネンをつけられたということを。こっちは被害者だというアピールたっぷりに。
しかし、俺の話半分に、警察官は予期せぬ問いを投げかけてきた。
「ひとつ聞くけど、キミは何で駐輪場に行ったの?」
「だから、駅前の駐輪場でインネンをつけられて。。。」
「そう、だから、駅前の駐輪場になんで行ったの?」
ん!俺は驚いた。警察官は釣具屋の駐車場に来たことより、駅前の駐輪場になぜ行ったかを気にしている。これはひょっとして、、、
「駅前の駐輪場?」
俺は恐る恐る聞いた。
「そう、駅前の駐輪場。あれ、キミの自転車?」
警察官はもう一人の警察官の見ている自転車をあごで示した。
俺は声が出なかった。そうして黙っている間に警察官が来た意味を理解した。警察は俺が自転車を盗む目的であの駐輪場にいたと思っている。確かに、用のない男が駐輪場にいることはかなりおかしい。おそらく、あのたむろしていた彼らのでっち上げ情報もあるんだろう。俺は自転車ドロボーにされているのだ。
「いや、あれは俺の自転車じゃないですけど、それは、だから、逃げるためにしかたなく。。。」
もはや、警察官は聞く耳を持っていなかった。
「うん、そうか。じゃあ、ちょっと署まで来てもらっていいかな?」
任意同行を要請された。この状況じゃあ、強制されているも同然だ。

 曽根崎警察署を出たのは夕暮れが綺麗に咲いた頃だった。真上の空は紺色とオレンジの細いグラデーションを作っていた。
取調べははっきり言って慣れない俺にはものすごい恐怖だった。正気でないと思われるのが嫌で、わらしべ長者の動機も言えず、お泊りも覚悟していたが、たむろしていた学生が恐喝を繰り返していたことが発覚し、自転車を藁と交換した件もその自転車の持ち主の寛大なお心もあって、この件不問となり、お開きになった。
そうして、夕闇を避けて梅田の地下街に降りた俺に残ったものは何もなかった。藁もない、自転車もない。梅田にいても使える金もない。
「クソったれ!」
俺はすでに帰宅ラッシュの始まった地下街で立ち止まり座り込んでしまった。
「もうどうだっていいや。モノの大切さ?そんなもんクソだ!第一藁に何の価値がある?なんぼかの価値があったとしても、それ以上のモノにはならねぇじゃないか。それ以上のモノを手に入れようとすると、」
俺は痛めた右膝をさすった。
「このザマだ。神さま、ホントに藁で何とかするつもりだったのかい?バカバカしくて、笑いもでねぇ。なぁ、今からでもできるなら、できるならやってみろってんだ!俺にすげぇモノを、今からでもつかませやがれ!」
思うままに吼えて、ちょっと笑ってみた。泣きたいような笑いたいような、腰の骨を抜かれたような気分だ。俺には何もねぇ。何もないんだよ。
ふと気づくと梅田の地下街は人だらけなのに、俺の周りだけ人が寄らなくなっていた。
「ああ、そうかよ。俺はそういう奴になっちまったのかよ。いいぜ、もうどうでもいいぜ。」
俺はそのまま目をつむり寝に入った。

そのまま5分ぐらい経った頃、誰かが話し掛けてきた。
「もしもし、ちょっと、ここで寝られると困るよ。」
左眼を薄く開けると、初老で細身のガードマンが腰をかがめ俺の顔を覗き込んでいた。
「風邪引いちゃうし、ね。おうちに帰った方がいいよ。」
こんなズタボロの俺に「おうち」なんて言う。
「もういいんだよ。どうだって。」
俺は再び寝に入った。
「そうかい。何があったか知らないがちょっと落ち着こうよ。お茶でも飲むかい?」
俺を誘っている。こんな俺に、藁も何も持たない俺にお茶をくれるという。俺は今度は両目でガードマンを見た。厳しい、しかし優しい笑顔。俺はこの人が最後の綱だと思った。
「俺は何も持っちゃいない。カネも何もないんだぜ。」
わらしべルール、物々交換に従えないことを説明するつもりで言った。
「お茶は私のサービスです。」
ガードマンは言うと、俺の手を自分の肩にかけ俺を起こしにかかった。俺は足が痛むためガードマンに甘えて立ち上がり、そうしてガードマンの案内に従い歩き出した。ちょっと歩いて振り返ると俺の休んでいたスペースは人々が踏み荒らし、もう帰宅ラッシュの地下街に変わっていた。

地下街を西梅田へと歩いて丸ビルに入り、そこの地下一階にある自販機カフェとも言えばいいのだろうか?飲み物の自販機があってすぐ側にイスとテーブルがある、ガラスで仕切られた空間でガードマンと俺は落ち着いた。
ガードマンは甘いホットミルクコーヒーをふたつ買うと俺の前に並べた。そしてひとつ取り、すすりはじめた。そうして何も言わない。俺はいただきますとつぶやいて少し口をつけた。甘い、けだるい温い甘さが俺の口に広がる。俺はホッと息をついて、今までの出来事をわらしべ長者の夢から話し始めた。ガードマンは何も言わずホットミルクコーヒーをすすっている。俺はひと通り話し終わると、ガードマンを見た。ガードマンは何も言わなかった。慰める必要もない。それほど俺には得たモノがあったのか?ガードマンの沈黙はそれ以上の答えとなって俺を考えさせた。しばらく無言のままふたりミルクコーヒーを飲んだ。そうするうちにガードマンは制服のポケットを探り始めた。
「ああ、タバコか。」
俺も無意識にポケットを探り始めた。
「あ、そういえば、俺はなにも持たないで出てきたんだ。」
そう思いながらぼんやりポケットを探る。すると胸ポケットに何か入っているのに気づいた。タバコだ。そして思い出した。
「あの駐輪場でからまれたときにねじ込まれたタバコだ。」
ガタイのいい奴に交換して来いとねじ込まれたタバコだった。
「俺にも残ってたよ。藁を持って歩いて手に入れたモノが残ってたよ。」
言いながら、タバコを箱ごとテーブルの上に置いた。
ガードマンはそのタバコの封を開けると、そこから一本タバコを抜き、火をつけ吸い始めた。俺も一本取ると、ガードマンにライターを借り、火をつけ、吸い始めた。吐き出す息とともに笑いが、なにかこそばい笑いが胸の辺りをくすぐった。
一本吸い終わるのに7分ぐらい。吸い終わると、ガードマンはテーブルの上のタバコをつかんでポケットに入れた。そして、財布から200円取り出し、テーブルの上に置いた。
「220円のタバコ。1本少ないから、200円。わらしべでしょ?」
そう言うと、ガードマンは立ち上がった。俺はテーブルの上の200円から100円をガードマンに渡し言った。
「これはコーヒー代。おごってもらったらわらしべじゃないだろう?」
ガードマンは微笑んだ。そうして、100円を受け取ると、そのまま振り返りもせず職務へ戻っていった。

俺は手にした100円を手にこれで何が買えるか考えようとした。しかし、いろいろな事があった今日が頭の中を走り回り、まともな考えはまとまらなかった。
ぼんやり外を見ると、ガラスの向うにタワーレコードが見える。
「CDが100円で買えるわけもないか。」
と言いながら立ち上がり、コーヒーの入っていた紙コップを握りつぶし捨てると、その足でタワーレコードの店内に入っていった。
入り口にはイチ押し歌手のモノであろうCDが棚に、凝ったディスプレイとともに飾られていた。俺はなんとなし手に取り値段を見た。
「3000円。」
ちょっと自分の行き当たりばったり加減に笑ってしまった。100円でCDが買えるわけがない。いくら夢を与える仕事と言えど、それなりの価格は変えられない。特にアーティストと言う人種はモノの価値を人一倍知っているもんだ。自分を安売りはしないだろうて。
「だから、俺のような奴がいるのかも。」
俺はひと通り店内を回ってみることにした。わらしべ長者は今となってはリアルではないが、少しそれにかけてみる気持ちもあった。
洋楽コーナー、邦楽コーナーと来て、普段は立ち入らないインディーズコーナーに入った。そして、棚も半ばに来たところで目を引くCDがあった。

天才ばかばんど・百人一首

なぜ、このCDに目がいったのか?バンド名かも知れない、ジャケットかも知れない、一枚のCDに100曲収録という所かも知れない、しかし一番の理由はそのCDに付けられた紹介文に書かれた文字だっただろう。
百円
ほんとかよ!と驚いた。俺はそのCDを手にとって裏を見た。CDケースに付けられた帯にも百円と書かれていたが、それより、タワレコの値札を確認したかった。
95円
うわっ!と驚きの声をあげてしまった。消費税含めて100円じゃないか!足先から頭のてっぺんに震えが走っていった。神様の存在を感じずにはいられない奇跡だった。この衝撃は徐々に熱となり俺の体中の血を沸騰させ始めた。そして俺の心に希望の光が見え始めた。俺は変われる。俺はどこにいても何をしても、モノを大切にしていればなんだってできる。このCDは化けるんだ。俺はこのCDから億万長者になるんだ。
俺ははやる気持ちを抑えつつ、そのCDを一枚つかむとレジへと急いだ。

と言う話を読みながら、「あれ?帰りはどうやって帰るの?」と心配しない努力

(文 濱口屋84号)

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天才ばかばんど tenbaka@yahoo.co.jp

 


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